2016年3月2日水曜日

水の配分を工夫する

米国北西部のワシントン州は、森や川など自然に恵まれ九州だ。オルワー川は、同州のオリンピック半島にあるオリンピック国立公園の山岳地帯からファンニアーフカ海峡に注ぐ、美しい川たった。ところが、一九一三年に下流に高さ百三十二メートルのオルワー・ダムが、一九二七年には上流に高さ六十四メートルのグラインズーキャニオンーダム、かできた。年間の漁獲だけで三十七万匹という大量のサケがのぼっていた川は「死」んでしまった。

二つの発電用のダム建設で大打撃をこうむったのは、下流地域でサケをとって暮らしていたクララム族というインディアン(アタリカ先住民)で、長年にわたって両ダムの撤去を訴えてきた。彼らの主張を支援していた人権団体に、一九八〇年代になると、自然の川を取り戻せと主張する自然保護団体も加わり、撤去運動は連邦議会でも共感を広げていった。

議会は一九九二年、「オルワー川の生態系と漁業を回復する法案」を可決し、両ダムの撤去にゴーサインを出し、ジョージーフノソユ大統領も同年十月に同法案に署名して法案は成立した。自然保護団体は、発電でえられる利益よりも、クララム族にサケを返し、自然をとり戻せば、釣りをはじめとする観光客も増えて、撤去は経済的にもプラス、と主張していた。議会が、ダムより人権や自然保護を優先させたことは、新しい時代の到来をしめした。日高山系から太平洋に流れる沙流川に、必要性に疑問のある一一風谷ダムをつくってアイヌ民族の聖地を水没させたばかりの日本との落差は大きい。

全米各地で川の自然回復運動が盛んになっている。先頭にたっているのは、自然保護団体であり、釣りの愛好者たちである。ダムの建設の時代は終わり、環境、レクリエーションなども勘案して撤去するものはする時代に入っている。日本でも、たとえば、熊野川の支流で、観光いかだ流しで有名な北山川は、上流に行くと戦後つくられた小さな発電所のダムにせき止められ、アオコに覆われたドブになり、美しい渓谷は台なしになっている。その後、周辺に巨大な発電ダムができているのだから、撤去して清流と渓谷美を取り戻すほうが、地元の経済にも大きなプラスになるはずだ。