2015年4月2日木曜日

石油だけによる繁栄から産業間のバランスのとれた長期的発展へ

国営原子力会社カズアトムプロムがウランの掘削・生産を独占し、ウランの生産量を二〇一〇年までに八倍にして、世界トップになる、ウラン鉱を加工して輸出するとの方針で、そのために多角資源外交を展開している。先のクシクンバエフ第一副所長は「ウラン輸出を大幅増加させ、ロシアだけでなく、中国、アメリカ、日本に向けて多角化する。わが国は核燃料の分野で世界の主導権を握っていくのが目標だ。そのためにはウラン分野での技術競争力を高めていかねばならないが、それには日本の技術力に期待している」と語った。

実際、ロシアとはウラン鉱床の共同開発、束シベリアでのウラン濃縮施設の共同建設を契約している。中国、アメリカともウラン長期売買契約を結び、共同開発での連携を図っている。日本も○七年五月、国内需要の三分の一を超えるウラン輸入契約、ウラン鉱床開発投資、加工技術供与、人材育成支援などの契約をカザフスタンと結んでいる。こうして、ウランが日本とカザフスタンを結んでいるのはあまり知られていないが、注目されて然るべきであろう。ナザルバエフ大統領は○七年四月の年次教書で、「カザフスタンは新たな発展の跳躍の入り口に立っている。新しい世界における新しいカザフスタンをつくろう」とのべ、「石油だけによる繁栄から産業間のバランスのとれた長期的発展へ」とカザフスタンを産業国家にするという国家目標を打ち上げた。「カザフスタンニ○三〇」と題する長期国家戦略である。具体的にはこうだ。

石油精製、石油化学工業センターの建設、ウラン製造工業の発展。ナノテクノロジー、生物テクノロジー開発センターの設置。IT村の建設。エタノール生産施設の建設。産業インフラの抜本的整備と人的資源の能力開発。エネルギー資源投資を柱とするカザフスタン証券取引所の創設。開発銀行、投資・イノベーション基金、貿易保険・信用保証機構の設立。WTO加盟による投資の増加と市場開放。かなり野心的で大胆な国家目標だが、その実現の道筋は明らかでない。看板倒れの恐れもあが、自立した産業国家をユーラシアの大地につくるという意欲は伝わってくる。カザフスタンは全人口一五四〇万人の五三%をカザフ人、三〇%をロシア人が占めているが、カザフ人を中心とした多民族国家である。ソ連時代はロシア人がカザフ人を上回っていたが、独立後に多くのロシア人がロシアに移住している。

大統領は憲法上、カザフ語能力がその資格に不可欠であり、政府の主要人物は言うに及ばず、カザフスタン社会の要路はカザフ人が押さえている。取材したカザフスタン戦略研究所の専門研究員もほとんどがカザフ人だったし、大学や政府関係施設の幹部もそうだった。かつてソ連時代に肩で風を切っていたロシア人は、今やこうした分野では数も少なく、肩身が狭そうだった。国家語はカザフ語だが、ロシア語も第二公用語であり、どこでも通じる。だが、ロシア語と同じキリル文字で表記されているカザフ語は、近くラテン文字に変えられる予定だ。

街路の名前もカザフ風に変わっている。かつての「レーニン通り」が「アバイ(カザフの哲人の名前)通り」になっているのも、その一例だ。カザフの新風が吹きぬけているのだ。「カザフ人は初めて独立国家を手にしたのです。わが国は、カザフ人を中心とする独立した多民族国家の道を歩んでいくことになります」(クシクンバエフ第一副所長)という気概あふれる言葉が印象的だった。カザフスタンには極東ロシアからスターリンによって強制移住させられた朝鮮人約一〇万人も居住しているが、カザフ人と同じチュルク(トルコ)系民族であるウズベク人やキルギス人、ウイグル人がかなり住んでいる。とりわけ、近年、中央アジアの成長センターとなっているカザフスタンに、ウズベキスタン、キルギスから多くの労働者が流入している。