2015年10月2日金曜日

ジェフリー・サックスのユダヤ人論

食に典型的に見られるように、文化というものは基本的にはローカルなものであり、それがグローバルな交流の中でお互い刺激しあうことによって成熟の域に達していくのであろう。食を一つの中心テーマに、巧みに演出されたリョンーサミットで、我々はもう一度、経済と文化、グローバリゼーションとローカルなコミュニティーの問題を考えさせられたのであった。

私の十数年来の友人の経済学者にジェフリー・サックスという男がいる。ハーバード国際開発研究所の所長で、国際経済、国際金融の分野では極めて有名であり、強い影響力をもちつづけている。

ボリビア、コロンビア等ラテンアメリカ諸国の「改革」にはじまって、ポーランド、ロシア等の市場経済移行の際に有力なアドバイザーとして政策提言を行い、いわゆるショック療法の指導者として知られている。その最盛期にはロシアにコンサルタント会社を設立し、二〇人にのぼるコンサルタントをロシアの各省庁に派遣し、「改革」路線の実現に努力したのであった。国際金融の世界で、これもまた、有名な投資家、ジョージーソロスがこのサックスのコンサルタント会社に多額の寄付をしていたのも事実であった。

サックスの「改革」路線、あるいは、ショック療法は必ずしも私の考え方と相容れない。いや、非常にしばしば、私の考え方の対極にあることも、また、たしかなのである。にもかかわらず、彼と筆者とが親しい友人でありつづけられたのはいったい、なぜだったのかと考えることがある。

もちろん、それは、たまたま彼と直接対立するような場面に出くわすということがなかったということもあるのだろうが、何か、それ以上のものがあるような気がする。一つはまちがいなく彼の卓抜した能力と強烈なエネルギーに対する尊敬の念であろうが、もう一つは彼が巷で言われているほど、弾力性のない「改革」派ではないという点なのであろう。

以前、彼と議論をする機会があったが、主題は当然、グローバリゼーションとローカルな文化、社会の安定という点をめぐっての展開であった。その中で、私がある種の驚きと感動をもって受けとめたのが彼のユダヤ人論であった。