2014年6月17日火曜日

高血圧の新しい診断基準

一九九七年一一月、アメリカ高血圧合同委員会(TNC)がWHOの基準では決して安心できないと、新しい基準を発表しました。それによると、最も望ましい(最善)のは、一八歳以上で、最高血圧が二一〇未満、最低血圧が八〇未満となっています。また、最高血圧一二〇以上一三〇未満、最低血圧八〇以上八五未満を「正常」とし、さらに最高血圧一三〇以上一四〇未満、最低血圧八五以上九〇未満の場合を「高値正常」としています。

高値正常とは、正常の範囲には含まれるものの少し高めで、正常と高血圧の境界域と考ることが出米ます。しかし、放置しておくと高血圧になる恐れがあるばかりでなく、徐々に血管が障害されていきますから、決して安心はできません。この境界域に相当する人は、それ以上血圧が高くならないように十分に気をつけると同時に、少しずつ正常、最善のほうへ血圧を戻していくようにする必要があります。そして、最高血圧一四〇以上、最低血圧九〇以上になると、「高血圧症」に分類され、さらにこの高血圧症は「ステージ1」から「ステージ3」に分かれています。

なお、最高血圧と最低血圧が異なるステージにある場合は、高いステージに分類することになっています。たとえば、「最低血圧は九〇を越えているけれど、最高血圧は一四〇に達していないから、高血圧症ではない」ということにはなりません。このような場合、最低高圧が高血圧のステージーの値に達しているため、高血圧症のステージーと判断されます。アメリカの高血圧合同委員会の新基準について少し詳しく述べましたが、要するに従来の基準はまだまだ安心できるものではないから、より厳しい基準か新たに定められた、ということです。新基準で最も望ましいとされているのは、最高血圧二一〇未満です。

なぜ基準が厳しくなったかと言いますと、いつもは「正常」の範囲なのに何かのきっかけで血圧が急上昇して、生死の境目をさまよう事態に遭遇する人が、決して少なくないからです。血圧が急上昇するようなことがあった場合、安静時の血圧が高めでは深刻な事態を招く危険があるけれども、低いくらいに抑えられていれば、そうした心配はより少ないだろうというわけです。つまり、血圧は従来の「正常」に油断することなく、できるだけ低く保つように心がけることが、健康に欠かせない新たな常識になってきているのです。

2014年6月3日火曜日

リップマンの三角関係

アメリカの著名なジャーナリストであるウォルター・リップマン(1889-1974)は、第一次大戦直後の一九二二年『世論(Public Opinion)という書物を著わした。今日でもマスーコミュニケーション研究の、古典として知られるこの書物は、次のようなエピソードで始まっている。大洋のなかに一つの島があって第一次大戦の直前、少数のイギリス人、フランス人それにドイツ人が住んでいた。

この島では六十日に一度、イギリスの郵便船が通って来ることによって、わずかに外界との接触が保たれていた。一九一四年九月この島に住む人々の主たる関心は、新聞に掲載されていたある殺人事件の公判の結果であった。まことに平和な生活であったと言う他はない。しかし予定の船はなかなかやって来なかった。そして郵便船がようやくこの島に到着したとき、この島に住む人々は互いに敵国人になったことを知って仰天した。海底電線の通じていなかったこの島では、第一次大戦が始まったことを誰も知らなかったのである。

リップマンはこのエピソードを手掛りとして「われわれの頭のなかにある映像」と「現実」との間には常にズレが存在している、という事実を述べている。この島の住民の例でいえば彼らの頭のなかにあった映像は、戦争のない平和な世界であった。だからこそ彼らの最大の関心事は、殺人事件の公判の結果だったのである。しかしながら現実の世界においては、既に第一次大戦が開始されていた。

そしてイギリス人とフランス人は、ドイツの敵国人になっていたのである。このようにわれわれの頭のなかの映像と、現実とのギャップを語るリップマンは、われわれの生活は次のような三角関係によって、成り立っているという。つまり「われわれの頭のなかにある映像」、「その映像に向って働きかけるわれわれの行為」、それに「現実の世界」、この三つの要素の三角関係によって成り立っているという。

私はこのリップマンの「三角関係」の話を聞くと、バークレーの社会学教授であったハーバートーブルーマー(Herbert Blumer 1901)のことを思い出す。ブルーマー教授に私が教室で初めて会ったのは一九六五年の冬、私がスタンフォードで修士号を得て、バークレーの社会学部の、博士コースに入学した時だった。あれはスタンフォードのセミナーのように、夜の七時半から始まる社会学理論の講義であった。