2014年8月5日火曜日

人間レオナルドの真実

「それをわれわれは、彼はナルチシズム(またはナルシズム)の途上で愛の対象を見出すというふうに表現するのである」前にも述べたように、人間の愛情の発達過程には三つの段階が考えられ、自分の身体そのものを性愛の対象とする「自体愛期」、自分自身に愛情を向ける「自己愛期」、最後に自分以外の人を愛する「対象愛期」にわけることができる。そして、自己愛期は自分の性に似た者を愛すること、すなわち同性愛と密接な関係がある。

父不在で育てられたレオナルド炉母への愛情(幼児性欲)を抑えこんだ結果、自分自身を母の立場におき、かつての母から独占的に愛された自分を美しい青年たちへの愛へと変化させたのである。結局、これは同性愛の形式をとった自分白身にむけられた愛情、すなわち自己愛なのである。同性愛というのは自己から異性へと性愛の対象を移していく過程で、自己とよく似た性器をもった同性を性愛の対象とするわけで、自己愛的性格の人はしばしば同性愛的空想や行為を示すのである。

フロイトは、このレオナルドの芸術分析ではT言「ナルチシズム」という用語を用いているのみで、それ以上のことについて言及していないが、その後「シュレーバー症例」(一九一一年)、『ナルチシズム入門』(一九一四年)、『精神分析入門』(一九一七年)で、いま述べた考え方をさらに発展させていくわけである。

ところで、美術史上のレオナルドは天才としてあまりに理想化されており、もっとも古いグァザーリの記述でも、すでに彼の神秘的な姿を伝えている。したがって、ここで述べたようなナルシスト的な人物像としてのレオナルドを描くことには抵抗を感じる読者もいるかもしれない。しかし、ジャーナリストではあるが、かえって歴史家よりもレオナルドの真実の人間像を適確に描写していると思われるので、モンタネッリの『ルネッサンスの歴史』からの引用で、この章を終りたい。